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人の本性は笑える?怖い?コメディ映画『笑う故郷』がおもしろ怖い!

 

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24時間を素の自分で過ごす人は、そうはいないだろう。

他人に対し仮面をかぶるのは普通のことだし、場合によってはマナーだ。

 

とはいえ思いがけず仮面が外れ、本性が覗いてしまうこともある。

 

そんな時は何が起きるのだろう?

喜劇だろうか、悲劇だろうか?

 

映画『笑う故郷』を観る限り、答えは「どちらも」だ。

 


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『笑う故郷』はアルゼンチン・スペイン合作映画。

都会で成功した大作家が40年ぶりに故郷の田舎町を訪ね、様々な人間ドラマが巻き起こるというコメディだ。

 

と言っても、単に都会と田舎の感覚のズレを笑う話じゃない。

確かに消防車での凱旋パレードや素人感たっぷりの「ダニエル・プロフィール・ムービー」など、田舎らしい素朴で熱烈な大歓迎には、客席からも笑いが起きた。

 

しかし本当の笑いどころはここからだ。

この大歓迎で人々がダニエルに見せていた「歓迎と尊敬の笑顔」が、実は仮面だったことが明らかになっていくのである。

 

テレビ番組の司会者は笑顔でダニエルの話を遮り、スポンサーの商品を宣伝し始めるし、同じく笑顔で再会した親友はダニエルの初恋の人と結婚したとおもむろに告げ「俺の勝ちだな!」と言い放つ。

 

こんなぐあいに田舎の人々の「歓迎と尊敬の笑顔」の下から、ダニエルへの無関心や嫉妬が見え隠れするたび、観客は笑わされる。

 

仮面からチラリと覗く本性というものは、端で見るとおもしろいのだ。

 


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仮面で本性を隠しているのは、ダニエルも例外ではない。

しかもダニエルの仮面は登場人物の中で、もっとも精巧だ。

 

例えば本作冒頭のノーベル賞受賞スピーチ。

ダニエルは「こんな賞に選ばれるのは芸術家として衰退だ」など、ノーベル賞を否定する発言を始めた。

聴衆は戸惑い(そんな言い方しなくても・・・)という空気が漂う。

 

しかし最後にダニエルが「ではなぜ受賞するのか、それは虚栄心があるからだ」と発言すると、会場は感激の拍手喝采。

賞に対する見解のみならず、自分の小ささも偽らず認めるダニエルに、毅然とした正直さを感じたのである。

 

しかし拍手喝采のなかダニエルがチラリと覗かせるのは(してやったり)という笑み。

 

映画の観客は気づく。

さっきの正直さは仮面にすぎず、この笑みこそがダニエルの本性だと。

そしてなんとも言えないおかしさが込み上げてくるのだ。
※セリフの語句は作品に正確ではありません。

 

 

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物語では田舎の人々もダニエルも、仮面の笑顔をとり繕い、交流を始める。

 

田舎の人々が仮面の下からチラリと本性を見せ、ダニエルが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるたび、観客は笑う。

 

ダニエルがそれまでのイメージからは意外な本性をチラリと見せることもあり(若い美人に誘惑された時など)、そこでも観客は笑う。

 

しかし物語がクライマックスに近づくにつれ、劇場内からは笑いが消える。

 

観客が飽きたわけではない。

ふと気づいたら物語が笑えない展開になっていたのである。

この運びは本当に巧みだ。

 

「歓迎と尊敬の笑顔」の仮面をみんながつけていた歓迎会から、本性をチラリと覗かせる人が現れ、やがて仮面を完全に外した人、つまりダニエルに本性をむき出しにする人が出てくる。

 

そうなるとダニエルの方も「洗練された文化人」の仮面をつけていられなくなる。

ついには双方、仮面をかなぐり捨てた本性で衝突してしまう。

 

怖いのは舞台が閉ざされた田舎町であることだ。

もちろん通信手段はあるが、1人で町に来たダニエルは孤立している。

本性を隠さない人が多数を占めるにつれ、町は異様な雰囲気に包まれていく。

そこへダニエルの本性の言動が火に油となり・・・

 

もはや物語はコメディではない。サスペンスである。

「いったいなぜ、ここまで笑えない話になってしまったのか」と、それまでの流れをずっと観てきたはずなのに思わずにはいられない。

 

観客にわかるのは、チラリと覗く本性は笑えても、むき出しの本性は笑えないということだけだ。

 


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著名人のスキャンダルが世にでると「これが本性で、今まで見せていた顔は嘘だったんだ」と叩かれるものである。

 

しかし本作を観ると嘘の顔、すなわち仮面は、生きていく上で必須だと実感するし、同時に「本性」とはなんなのかが疑問になる。

 

ダニエル1人をとっても「ウィットにとんだ文化人」「威厳ある大作家」という仮面の下には、「うぬぼれ屋」「スケベオヤジ」そして「普通にいい人」と、いくつもの素顔がある。

そのうちのどれを、彼の本性というべきなのだろう。

 

人の仮面と本性のおかしさ、怖さ、そして不思議さを、まるごと堪能させてくれる本作。

ちなみにラストはコメディらしく、笑顔で幕を閉じる。

誰の笑顔か、仮面の笑顔か本性の笑顔かは、ぜひ劇場で確かめてほしい。

 

映画『笑う故郷』は東京・岩波ホールにて10月末まで上映、11月前後より全国3地域で公開予定。(※公開予定についてはこちら)

 

www.waraukokyo.com