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実はフェミニズム関係なし?metoo直撃映画『ゲティ家の身代金』

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metoo運動の直撃を受けた作品として公開前から大きな注目を集めていた映画『ゲティ家の身代金』が、5月末より日本公開されています。

劇場に観に行ったときは空席が目立っていたため(ハズレか?)と心配でしたが、これおもしろいよ!!すごく重厚なサスペンスです。

 

世界一の大富豪の孫が誘拐され、身代金は50億円。ところが爺ちゃん「払わない」と言うもんだから、ママ大変!というのがザックリあらすじ。人質の母親は誘拐犯と義父、双方と交渉しながら息子を救い出そうと奮闘します。

 

孤立無援で戦う母…と聞くと、『フライトプラン』『チェンジリング』のような“強い女性”の活躍を描くフェミニズム的な作品だと思うかもしれません。

ところが全編を観てみると意外なことに、フェミニズムは本作のメインテーマではないし、そもそも主人公は母親ではなかったんだと気づかされます。

 

 

 

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本作は中流階級のシングルマザー・ゲイルの息子・ポールが誘拐された事件をめぐるサスペンス。この事件は1973年に実際に起きたものです。

身代金は1700万ドル(50億円)と超高額。なぜならゲイルの元夫の父親、つまりポールの祖父は、世界一の大富豪ジャン・ポール・ゲティ(以下:ゲティ爺)だったからです。

 

このゲティ爺を演じて“いた”のは、ケビン・スペイシー。『ハウス・オブ・カード』などに出演していた超人気俳優でした。

 

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(上司にしたくない男ナンバーワン ※左端)

 

ところが2017年のmetoo運動でこれまで行っていたセクハラの数々が暴かれ、スペイシーは業界追放となります。この騒動、なんと『ゲティ家の身代金』全米公開の1ヶ月前

 

www.cinra.net

 

作品の準主演がスクリーンに映っちゃいけない存在になった以上、ほぼ完成されていた本作はお蔵入りか・・・!?と思われるも、リドリー・スコット監督は漢(オトコ)だった!

即座に名優クリストファー・プラマーの代役出演をとりつけ、スペイシー出演のシーンをすべて撮り直したのでした。

 

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(御年88歳。本作でアカデミー賞助演男優賞ノミネート)

 

こんな事情だったので予告編を探すとスペイシー版(英語のみ)とプラマー版の2つが見つかるのですが、見比べると「まったく同じ役なのに、役の解釈がぜんぜんちがう!」と驚かされます。

特に↓この「ナッシング」のシーン。

 

(スペイシー版予告編全体はこちら) 

 

(プラマー版予告編全体はこちら)

 

スペイシーは「ナッ・・・シング⤵︎」と厳しく強い意志を感じさせる語調。

ところがプラマーは「ナッシン⤴︎★」ととってもお茶目!半笑いすら浮かべてます。

 

それによって、続くゲイルの表情も異なる印象に。スペイシー版では「そんな・・・(絶望)」って感じなのに対し、プラマー版は「ジジイ今なんつった?(湧き上がる怒)」って感じです。まったく同じ驚愕の表情なのに!

 

 

www.youtube.com

(母・ゲイルが声明を出すシーン。サムネイルはゲイルではなく記者) 

 

えっ?「ナッシングって何?」って?

これはマスコミの「身代金いくら払うんですか」への返答。そう、ゲティ爺は身代金の支払いを拒否するんです。

そして犯人にも母親ゲイルに対しても、一切の交渉をつっぱねます。

 

一応「私には孫が複数いる。身代金を払ったら孫たちが片っぱしから誘拐される」と、テロリストとは交渉しない的な理由をつけていますが、傍目には「いや、あんた金が惜しいだけだろ」としか見えん・・・だって半笑いだもん、ずっと!

「誤解しないでほしい、ポールのことは愛している」って、絶対嘘だろ!って感じなんです。だって半笑いじゃん!終始半笑い。

 

しかもこのゲティ爺、一代で財を築いた人だからか、ものすごいケチなんです。一流ホテルのスイートルームに泊まっても「クリーニングサービスは高い」と自分で自分のパンツ洗うくらい。

美術品には目がないんですが、それでさえ「このオブジェは最初の価格からいくらいくらまで値切った(ドヤ)」との武勇伝がついてきます。

 

しまいには(この「拒否」ってまさか、値切りなんじゃ・・・?値切りって完全拒否よりゾッとするぞ・・・だって、人の命だぞ・・・?)なんて思えてきます。

でも(値切るってことは、一応金を払う気はあるわけで、やっぱりポールを取り戻したいのかな?)とも思ったり。

 

成り上りという背景、矛盾する言動、そして半笑いが、ゲティ爺を「血も涙もない傲慢な老人」と単純にタグ付けできない印象にしています。

どこまで本気でどこまでふざけているのか、ポールを愛しているのかどうでもいいのか、ゲティ爺は作中で最もミステリアス。最も本心を掴みにくいキャラクターです。

 

 

 

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そんなミステリアス・ボーイのゲティ爺ですが、さすがに何もしないわけではなく、元CIAのボディガード・チェイスを事件解決のためゲイルの元へ派遣します。

 

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(インテリマッチョ)

 

チェイスを演じるのはマーク・ウォールバーグ。『テッド』の自堕落な主人公役で有名ですが、『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』では筋肉信仰に取り憑かれたトレーナー役を演じるなど、すばらしい筋肉を誇るマッチョ俳優です。

 

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(3人の平凡なマッチョがおぞましい犯罪に手を染めるブラックコメディ ※右端)

 

このウォールバーグも実は、metoo運動のやり玉に上がりました。叩かれた理由はセクハラではなく賃金問題


前述の再撮影にあたり、役者の方々にもちろん出演料が追加で支払われたのですが、ウォールバーグの受け取った金額は主演女優ミシェル・ウィリアムズのなんと100倍(150万ドル、約1億6000万円)

ウィリアムズとウォールバーグはともにメインキャストで、出番の量に大きな差はありません。「なのになんで?」→「男女の賃金格差だ」と非難されたのです。

 

ウォールバーグは批判を受けるとすぐに、再撮影のギャラを全額寄付。「状況をよくわかってなかった、あれはとても気まずかった」とトホホな感じの声明を出しました。ちょっと可哀想かも・・・

 

esquire.jp

 

でもね・・・世間の皆さんが怒るのも無理ありません。だってウォールバーグ、まったく仕事してないもん!

 

「してたよ」って?いや、この人、ぜんぜん役に立ってないんですよ。すごい筋肉してるのに。ストーリーと無関係の腕立てトレーニングシーンとかあるのに。ずーっとピチピチのスーツ着て、はちきれそうなバストラインを強調してるのに。

 

 

「これが交渉だ!」って電話できついこと犯人に言って、ぜんぜん犯人を説得できないでただ怒らせてるし。この人が怒らせた犯人をゲイルがなだめたりしてるし。ゲティ爺の説得だって、結局作戦はゲイルが立ててるし。この人はゲイルの作戦に乗って、ラストでちょっと怒鳴るくらいです。

 

元CIAでしょ!?普通のおばさんに負けとるじゃん!!

 

唯一役に立つのは、ベビーシッターくらい。子どもには好かれるらしく、ポールの幼い妹とテーブルゲームしてキャッキャなつかれてます。

 

いや、それ筋肉いらないから!!!

 

 

www.youtube.com

(こんなタイトルが君のインタビュー映像にはつくんだ、マーク!みんなが君に期待してるのは筋肉なんだ!!!)

 

 

・・・・・・・・ハッ。まてよ。

 

なぜマッチョな俳優は必ずマッスルアクションをやらないといけない、と、わたしは考えているんだろう。

なぜわたしは「ちょっと!アクションやらないってんなら、せめて腕立てシーンはTシャツ脱ぎなさいよ!」とか考えてるの?

 

まるで「長澤まさみ主演ってんなら、せめて胸の谷間くらい見せろや!なんのための巨乳だ」なんて、薄汚いヤジを飛ばすおっさんみたいじゃないの!やだ!

 

いやはや、セクハラはやっぱり他人事じゃないですね。「女のくせに」と同じく「男のくせに」「ムキムキのくせに」も当然、セクハラな発想です。気を付けなければ。

気を引き締めるために、とあるアメリカ人女優が言ったという名セリフを胸に刻んでおきます。

 

(『レナ・ダナム、脱ぐんじゃねー!俺はお前の裸なんか見たくねー!』『人に見せる裸じゃねーだろ!』とのヤジに対して)

『あなたたちは女の人の裸(※「マッチョな男の筋肉」に置き換え可)っていうのは男(※「おばさん」に置き換え可)に見せるためにあると思ってるの?

そうじゃないわよ!私たちは人間なんです』

(miyearnZZ Labo)

 

シュン・・・ごめんなさい。

 

 

 

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というわけで、図らずしもフェミニズム問題に深い関わりを持つこととなった本作。

ストーリーも「ママ頑張る!」でフェミニズム的だし、運命を感じるなぁ・・・なんて、観る前は思っていました。

 

ところが実際観てみると「あれ?これ別にフェミニズム映画じゃないかも?

 

物語の前半のあるシーンで、ゲイルがもともと作中最強キャラのゲティ爺にとって唯一の天敵だったことが明らかになります。

それは彼女と夫(ゲティ爺の息子)の離婚協議のシーン。ヤク中アル中でほとんど廃人の夫から子ども達を引き離すべく、ゲイルは単独親権を望みます。しかし協議の相手は夫ではなく、超一流弁護士団を引き連れたゲティ爺。

「親権ねぇ、うーん、どうしようかなぁ」と、ゲティ爺は例の半笑いでノラリクラリ。なんとか慰謝料や財産分与を安く抑えようと(ここでも値切る!)交渉してくるんですね。

 

それに勘づいたゲイルはゲティ爺にある取引を突きつけます。「今すぐ単独親権に同意するなら、お金は一切いらない。全部放棄する」と。

 

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(予告編より)

 

これにはゲティ爺、ビックリ仰天!「なんか裏がありそうだ・・・」との疑いの目すらゲイルに向けます。

 

つまり、ゲティ爺は人生における重要ランキングで「金」が不動の1位の人なんです。そして誰も彼も自分の金に群がってくるという実体験から「結局みんな金が欲しいんだ」との考えを、嫌悪感を抱きつつも確信していました。

だからゲイルのような「子ども」が不動の1位の人が理解できないんです。

 

そして、ゲティ爺はゲイルの提案を飲みます。なぜ?孫と離れ離れになってもいいの?やっぱり孫なんてどうでもいいの?

そういう問題じゃないんです。「こっちの方が金銭的におトク」という選択肢を提示されたら、ゲティ爺はそちらを選ばずにはいられないんです。なぜって、彼は世界一のケチだから!!!

 

このシーンによって、観客はゲティ爺の弱点に気づきます。ゲティ爺は金を失う選択肢は絶対に選べないのだと。「選ばない」じゃなく「選べない」なんだと。

だからゲティ爺はゲイルに絶対かなわないんです。なぜって、ゲイルは「金か子どもか」で1mmも迷わず「子ども」を選ぶ人だから。

 

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(公式本編映像より)

 

この事実こそ、ゲティ爺の半笑いでごまかされた本心を読み解く鍵となります。

もしかして身代金値切りも交渉を一切拒否したのも、ゲティ爺が犯人ではなくゲイルに仕掛けた駆け引きだった・・・!?

 

ゲティ爺が本心で一番ほしいと望んでいたものはなんだったのか、それは、彼の最後の出演シーンで痛烈に暗示されます。

そう、本作の主人公はゲイルではなくゲティ爺であり、本作は金にとり憑かれた老人の悲劇の物語だったのです。

 

 

 

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なんかえらい長くなってしまいましたが、そのくらいサスペンスとして謎めいていて、ヤキモキハラドキに満ちた作品でした。

 

マッチョの裸が見れるわけでもなく、おまけに実は美魔女ではなくジジイが主人公という一見サービス精神ゼロな映画ですが、大丈夫!ちゃんと面白いです。

騙されたと思って観に行ってみてー!!

 

 

 

getty-ransom.jp

 

 

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